
DFT(象牙質内の液体移送システム)理論
象牙細管内の「歯の中の液体(象牙質液)」の移動が、痛みや炎症の刺激を運ぶという考え方です。健康な歯でも歯髄圧により液体は外向きにゆっくり流れますが、むし歯で象牙質が脱灰すると細管が広がり、透過性が増します。すると冷・熱・乾燥・甘味(高浸透圧)などで液体が急に動き、細管壁近くの神経終末が機械的に刺激されて鋭い痛み(知覚過敏様症状)になります。
さらに進行う蝕では、表層が崩れて「栓(スミア層)」が失われやすく、圧や浸透圧の変化で内向きの「逆流」が起こると、酸や細菌由来物質が細管を通って歯髄側へ届き、歯髄炎の引き金になりえます。
浅い段階で封鎖(レジン、セメント)や再石灰化を行い細管を狭めると、液体移動が減って症状が落ち着き、歯髄の防御反応(第二象牙質形成)も進みます。臨床的には乾燥させ過ぎない、早期に封鎖することが要点です。
DFT(Dental Fluid Transport)の役割
- 歯への栄養供給
歯髄の血管から、ミネラルや栄養が液体を通じて歯の表面に運ばれます。 - 自然治癒
運ばれた栄養分によって、初期のむし歯を治したり、歯そのものを強化したりする自然治癒の働きがあります。 - 洗浄作用
常に液体が流れることで、象牙細管内の洗浄が行われます。このため、「歯のリンパ」と呼ばれることもあります。

- 象牙質: 歯のエナメル質の内側にある組織
- 象牙細管: 象牙質には、歯の中心部にある歯髄(神経)に向かって無数の細い管が通っています。この管の中は液体で満たされています。
健康な歯(右)
- 液体はゆっくりと外側へ流れる
- 歯髄(神経)を保護する
- 液体はゆっくりと外側へ移動する
- 刺激の影響は最小限
逆流(左)
- 液体は速く内側へ流れる
- 歯髄を刺激・感染させる
- 液体は速く内側へ動き、細菌や酸を運ぶ
- 刺激が症状を引き起こす、悪化させる
DFT理論とむし歯細菌説との対比
| 項 目 | DFT理論 | 従来の虫歯理論(細菌説) |
| 主な原因 | 体内の代謝バランスの崩れ・液体の流れの異常 | 口腔内の細菌(ミュータンス菌)による酸の産生 |
| 虫歯の発生機構 | 内部からの防御機構(液流)が 失われることで、毒素が内部へ侵入 | 食べ物の糖をエサにした細菌が酸を出し、歯を脱灰する |
| 対 策 | 栄養、生活習慣、ホルモンバランスの調整など 血糖値管理 (砂糖・GI値) | 歯磨き、フッ素、抗菌対策、糖分制限 |
学術的な裏付け
書籍:Dentinal Fluid Transport 著作:Clyde Roggenkamp

Dentinal/Dental Fluid Transport:象牙質液輸送
Clyde L. Roggenkamp, DDS, MSD
- ロマリンダ大学 歯学部総合歯科准教授
- DFT理論の理論の編纂者・解説者(教育的発信者)
- 2005年に著書 “Dentinal Fluid Transport” を出版し、Ralph R. Steinman と John Leonora の研究を時系列に整理し、DFT理論(う蝕抵抗性を説明する枠組み)へつなげる
- DFT理論の歴史と評価(ホルモンが歯外から象牙質液の流れを調節し得るという観点)を扱う論文執筆
- 講演実績「DFT理論の背景と成立機序の可能性」


